中国(5): 早期審査・審査促進(特許審査ハイウェイ(PPH)等)

優先審査制度

特定の重要産業分野の発明に関する特許出願の優先審査を可能にする「発明特許出願優先審査管理弁法」が、2012年8月1日より施行されます。

しかし、この制度は、適用が特定の重要産業分野における「重要技術」に制限されていることに加えて、中国を第一国とする特許出願しか利用できません(即ち、日本出願に基づくパリ優先権を主張して中国に出願する場合や、日本で出願したPCT経由で中国に出願する場合には利用できません)。技術の重要性がどのように評価されるのかは定かではありませんが、日本の出願人が広く利用できる制度とは言えないようです。

尚、優先審査の対象となる技術分野は、省エネルギー又は環境保護、新世代通信技術、バイオテクノロジー、ハイエンド設備製造、新エネルギー、新素材、新エネルギー自動車、低炭素技術、資源節約などグリーン開発に寄与する技術などとなっております。

実用新案(実用新型専利)の利用(特許との同時出願)

中国の実用新案(実用新型専利)制度は、権利期間10年、方法は保護対象外、無審査登録などの点では、日本の実用新案制度と類似しています。無審査のため、特許(発明専利)が権利化まで2年半~3年半程度要するのに対して、実用新案は約6ヶ月程度で権利化できます。

中国では、日本と異なり、同一の発明に関して、特許出願と実用新案出願を同時に提出することが正式に認められています。そして、特許出願が許可になり登録されたら、実用新案権を放棄するということが許されます。従って、最終的には特許権獲得を目指す場合でも、先ず実用新案で早期に権利を取得しておくということが可能です。

日本でも、実用新案を特許出願に変更することはできますが、その時点で、実用新案権は放棄しなければなりません。従って、特許出願が許可にならなかったら、全く権利がなくなってしまいます。

また、日本では実用新案に基づく権利行使には、特許庁より技術評価書(ここでは、特許出願の審査と同様に、新規性・進歩性が評価されるが、要求される進歩性は特許と比較して低い)を入手することが必要ですが、中国では不要です。

中国において特許出願と実用新案出願を同時に提出し、権利化を図る際には、以下の要件を満たす必要があります(中国専利法9条、及び専利法実施細則41条):

(1) 同じ出願人が同日に特許出願と実用新案出願を行う。

(2) 特許と実用新案の両方の出願において重複して出願している旨を明記する。

(3) 特許が登録となった際に、実用新案権を放棄する。

従って、中国における早期権利化を望む場合、特許と実用新案を同時出願するということは、有効なオプションの1つとして検討に値すると考えられます。

但し、国際出願(PCT出願)の場合、中国へ移行する際に実用新案を選択することは可能ですが、特許と実用新案を両方出願することはできません。従って、特許と実用新案を同時出願するのであれば、中国を第一国として出願するか、最初の日本出願から1年以内にパリ優先権を主張して出願する必要があります。

特許審査ハイウェイ(PPH)

日本国特許庁(JPO)と中国国家知識産権局(SIPO)は、特許審査ハイウェイ試行プログラムを2011年11月1日より実施しており、2012年10月31日に一旦終了しますが、更に1年間この試行期間が延長されました。延長後の施行期間は、2013年10月31日に終了する予定です。この試行プログラムでは、PCT出願の国際段階成果物に基づく申請も可能です。

尚、2012年11月1日からの新たな施行においては、それ以前の申請手続きと比較して、必要提出書類に関する制約が若干緩和されましたが、それ以外の点については実質的な違いは有りません。

上記した通り、中国には、PPH以外にも優先審査制度が有りますが、これが利用できるのは非常に限られた場合のみとなっていますので、中国における早期権利化を目指す場合には、PPHは非常に有用なオプションとなります。

[I] PPHの概要

PPHとは、他国の審査結果又はPCTの調査成果に基づいて審査促進(早期審査)をするものです。これに関して、PPHを利用すると、日本で特許査定になったら、その結果をもって直ちに中国でも特許が取得出来るとお考えの方が多いようですが、そうではありません。あくまで日本の審査結果を利用して審査促進するというものです。日本特許庁に特許性を認められている訳ですから、PPH参加により結果的に中国でも特許成立する確立は高くなる筈ですが、例えば中国国家知識産権局は、他国の審査結果に従うことを要求されたり推奨されたりするものではありません。

PPHの申請に関する情報は、日本特許庁のホームページに公開されています。
http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/japan_china_highway.htm

尚、日中PPHには、日本国特許庁(JPO)の国内出願の審査結果を利用するものとJPOのPCT国際段階成果物を利用するものが有ります。JPOの国内出願の審査結果を利用するPPHの場合、日米PPHと比較すると、適用可能な条件に制約が大きく、特に申請可能な時期が非常に限られておりますので注意が必要です。

[II] 日本国特許庁(JPO)の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ(PPH)

II-1.JPOの国内出願の審査結果を利用したPPH(以下「JPN-PPH」)の適用をうけるための条件:

日米PPHと比較すると、中国でPPHの適用をための条件にはかなり制約が有ります。PPHの適用を受けるための条件を簡単に纏めますと以下の通りです。

(II-1a) 日本出願と中国出願の対応関係について
JPN-PPHの適用が可能な日本出願と中国出願の対応関係は大きく分けて以下の2通りになります。

 - 日本出願が中国出願の優先権出願である(中国出願がPCT経由の出願である場合を含む)。
 - 中国出願と日本出願とが、共通のPCT出願から派生したものである(ここでPCT出願は、優先権主張していないか日本出願に基づく優先権を主張しているPCT出願)。

日本以外の国(中国を含む)における出願が、中国出願の優先権出願である場合にはJPOの審査結果に基づくJPN-PPHの適用は受けられません。(中国出願に基づく優先権主張をした日本出願であって、JPOが審査を開始する前に中国出願が先に特許になった場合には、SIPOの中国国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイをJPOに対して申請することができます。)

更に後述するように申請可能な時期についてもかなり制約が有ります。

(II-1b) JPOによる特許性判断
日本出願の少なくとも一つの請求項が、JPOによって特許可能と判断されていなければなりません。即ち、特許査定を受けていなくても、少なくとも一つの請求項が特許可能と認められていれば、それに基づいてPPHの申請が可能です。例えば、JPOに日本出願の請求項1は拒絶されたが、それに従属する請求項2については特許可能(拒絶理由を発見しない)と明示された拒絶理由通知や拒絶査定を受けたような場合にも、中国出願の請求項1を該日本出願の請求項2に対応するように補正してPPHの適用を受けることが出来ます。

(II-1c) 日本出願の請求項と中国出願の請求項の対応関係
PPHに基づく早期審査を申請する中国出願のすべての請求項が、対応する日本出願の特許可能と判断された一又は複数の請求項と十分に対応しているか、十分に対応するように補正されていることが必要です。尚、中国出願の請求項の範囲が日本出願の請求項の範囲より狭い場合も、請求項は「十分に対応」するとみなされます。

補正する場合は、中国においては、自発補正の時期が審査請求時又は実体審査移行の通知の受領から3か月以内に制限されていることに注意が必要です。

(II-1d) PPH申請可能な時期
JPN-PPHに基づく審査を申請する中国出願は、以下の時期的条件を満たしている必要があります。

 - 当該中国出願が公開されていること。
 - 当該中国出願が実体審査段階に移行していること。(SIPOから実体審査移行の通知を受領していることが必要。ただし、例外として、審査請求と同時であればPPHの申請が可能。)
 - 当該中国出願に関しSIPOにおいて、PPH申請時に審査の着手がされていないこと。

II-2.PPH申請時に提出する書類

PPHの申請書と共にJPOによる審査に関する以下の書類を提出する必要があります。

 (a) 対応する日本出願に対してJPOから出された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)すべての審査通知の写とその翻訳文(中国語又は英語)(注:これらの書類については、2012年11月1日以降は、JPOのサイトからオンラインで入手可能な場合には提出不要)
 (b) 対応する日本出願の特許可能と判断されたすべての請求項の写とその翻訳文(中国語又は英語)
 (c) JPOの審査通知において審査官により引用された文献
 (d) 中国出願のすべての請求項と対応する日本出願の特許可能と判断された請求項との関係を示す請求項対応表

[III]  JPOのPCT国際段階成果物を利用したPPH

III-1. JPOのPCT国際段階成果物を利用したPPH(以下「PCT-PPH」)の適用をうけるための条件

(III-1a) PCT-PPHの根拠となり得るPCT出願
PCT出願の国際段階における国際調査機関(JPO)が作成した見解書、国際予備審査機関(JPO)が作成した見解書及び国際予備審査報告のうち、最新に発行されたものにおいて特許性(新規性・進歩性・産業上利用可能性のいずれも)「有り」と示された請求項が少なくとも1つ存在することが要求されます。

日本でPCT出願する場合、英文明細書で出願した場合は、国際調査機関、国際予備審査機関としてEPOを指定することも出来ますが、その場合、中国出願についてPCT-PPHを利用することは出来ません。

また、PCT-PPH申請の基礎となる最新国際成果物の第VIII欄に何らかの意見(請求の範囲、明細書及び図面の明瞭性又は請求の範囲の明細書による十分な裏付についての意見)が記載されている場合、当該出願はPCT-PPH試行プログラムへの参加が認められません。

優先権出願が中国出願であってもPCT受理官庁がJPOであって国際調査機関(ISA)、国際予備審査機関(IPEA)がJPOであれば、PCT-PPHを利用することが出来ます。

(III-1b) PCT出願の請求項と中国出願の請求項の対応関係、並びにPPH申請可能な時期
上記JPN-PPHの場合と同様です。

III-2. PPH申請時に提出する書類

PPHの申請書と共にPCT出願に関する以下の書類を提出する必要があります。
 (a) 特許性有りとの判断が記載された最新国際成果物の写とその翻訳文(中国語又は英語)
 (b) PCT出願の最新国際成果物で特許性有りと示された請求項の写とその翻訳文(中国語又は英語)
 (c) PCT出願の最新国際成果物で引用された文献の写
 (d) 中国出願の全ての請求項と、特許性有りと示された請求項とが十分に対応していることを示す請求項対応表

(注: 上記(a)及び(b)の書類については、中国出願が、対応PCT出願の国内段階である場合及びPATENTSCOPEにおいてこれらが公開されている場合には提出不要。)


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