PCT(3): 国際調査機関による先行技術調査、国際段階での補正
PCT国際出願の大きなメリットの一つが、国際調査機関(ISA)による先行技術調査を受けられることです。国際調査(先行技術調査)の結果は、優先日からほぼ16ヶ月までに出願人に通知されます。
国際調査機関(ISA)
日本特許庁にPCT国際出願した場合の国際調査機関(ISA)は以下の通りです。
日本語でPCT出願した場合: 日本特許庁
英語でPCT出願した場合: 日本特許庁若しくは欧州特許庁(EPO)のいずれかを選択
米国、カナダ、中国、韓国、オーストラリア等の特許庁もISAとして承認されていますが、日本特許庁に提出するPCT国際出願の場合、ISAとして選択できるのは、上記の通り、日本特許庁かEPOのいずれかです。
調査結果の通知
以下の2種類の書類が送付されてきます:
1)国際調査報告書
文字通り、調査結果の報告書。国際調査を行った分類、関連する技術に関する文献等が記載されている。
2)国際調査機関の見解書
発明が特許として認められるか否か(新規性、進歩性、産業上利用可能性の有無)についての見解。
調査結果の意義と出願人が取り得る対応
調査結果(国際調査報告+国際調査見解書、以下、纏めて”ISR・ISO”と称す)は、実際の出願国(PCT出願の移行先の国)の審査に対する拘束力は有りません。要するに、各国の特許庁は、ISR・ISOと矛盾する内容の審査通知を出すことがあります。特に、日本特許庁が国際調査機関(ISA)で、米国や欧州に出願した場合など、米国や欧州の特許庁は、ISR・ISOの内容にはあまり影響されず、独自の調査をするようです。
但し、移行先の国の特許庁が国際調査機関(ISA)であった場合(例えば、日本特許庁がISAで、PCT出願を日本に移行したような場合)は、その国の審査においてISR・ISOに沿った形の審査通知が出される傾向があります。例えば、日本特許庁がISAで、PCT出願を日本に移行したような場合、国際調査を担当した日本特許庁の審査官が、移行後の日本出願の実体審査も担当するということは少なくありません。そのような場合、ISR・ISOに沿った形の内容の審査結果となる可能性が高いです。
また、欧州特許庁(EPO)が国際調査機関(ISA)であり且つ欧州に移行する場合(例えば、日本特許庁にPCT出願を英語で提出し且つISAとしてEPOを選択して、欧州に移行する場合)には、ISRの公開又は欧州移行の遅い方から約2ヶ月後に、ISAの見解書に対する応答要求の通知(規則161(1))(回答期限:通知から6ヶ月以内)が発行されます(但し、ISOの内容が否定的であった場合のみ)。従って、当然のことながら、ISAがEPOで、欧州に移行する場合には、ISAの見解書の内容は、欧州移行後のEPOによる実体審査に直結するものとなります。
上記の欧州の場合を除き、このISR・ISOには特に応答(答弁書提出)する必要はありませんが、ISAの見解が望ましいもので無かった場合、出願人は以下のようなアクションを取ることができます。
1. 非公式コメントの提出
国際調査機関の見解書に対する反論を「コメント」として国際事務局に対して提出する。ただし、この「コメント」は、国際事務局が指定官庁に転送するために単に受け付けるものであって、PCT規則において明文化されていない「非公式なコメント」として取り扱われ、これを参酌するかどうかは各国特許庁審査官の裁量に委ねられる。
(※尚、この「コメント」の提出は、国際段階であればいつでもできます。また、様式は特に定められておらず、書式自由となっています。この非公式コメントの実質的な効力については、弊所の経験上、外国特許庁の審査官がコメントを積極的に考慮するということは期待できないと思います。国内段階移行後に、国際調査見解書と同様の理由で外国特許庁に拒絶された時の為の準備程度に考えておいた方がよいでしょう。)
2. 19条補正の提出
国際事務局に対して19条補正を提出する。19条補正の特徴は以下の通り。
補正可能時期:
国際調査報告の送付の日から2月または優先日から16月のいずれか遅く満了する期間内。
補正可能範囲:
請求の範囲のみ。
補正可能な回数:
1回のみ。
補正提出に関する費用:
特許庁へ支払う手数料は無し。代理人手数料のみ(難易度などによるが、通常、5~10万円程度)。
補正によりISAの見解が変ったかどうかの確認:
確認することは出来ない。
補正の公開:
補正は、国際公開公報に反映される(補正後の形で国際公開される)。
3. 国際予備審査請求
国際予備審査請求をする。それにより、ISAの見解書に対して正式に反駁・抗弁することが可能になる。この際、必要に応じて34条補正が可能。国際予備審査請求に関する手続きの特徴は以下の通り。
国際予備審査請求時期:
国際調査報告の発送日から3ヶ月、または優先日から22ヶ月のいずれか遅く満了する日まで。
国際予備審査請求した場合の国際調査見解書の扱い:
国際予備審査請求した場合には、ISAの見解書は原則として国際予備審査機関による第一回目の見解書とみなされる。
一方、国際予備審査請求をしていない場合、上記の見解書は、「特許性に関する国際予備報告(第I章)(IPRP(第I章))」と改称されて指定国に送付される。
ISAの見解に対する反論と補正:
答弁書と、必要に応じてと34条補正を提出する。尚、答弁書と34条補正は、国際予備審査請求請求と同時若しくは国際予備審査報告書が作成される前に速やかに提出する。
補正可能範囲:
34条補正では、請求の範囲のみならず明細書や図面も補正できる。(19条補正では、補正出来るのは請求の範囲のみ。)
補正可能な回数:
国際予備審査請求をしてから国際予備報告書が作成されるまでの期間内であれば、制限無し。
補正の公開:
補正は公開されない。
国際予備審査請求に関する費用:
1) 国際予備審査機関(IPEA)がJPOの場合(2012年6月1日以降)
・JPOに支払う手数料: ¥44,300 [¥26,000(予備審査手数料) + ¥18,300(取り扱い手数料) 但し、クレームが単一性を満たさない場合、追加料金の支払いが必要になる場合あり]
・代理人手数料(国際予備審査請求+補正書+答弁書): 一般的に10~25万円程度(難易度などにより大きく異なる)
2) 国際予備審査機関(IPEA)がEPOの場合
・EPOに支払う手数料: 2,015ユーロ(110円/ユーロとして約¥22万円) [1,850ユーロ(予備審査手数料) + 165ユーロ(取り扱い手数料)但し、クレームが単一性を満たさない場合、追加料金の支払いが必要になる場合あり]
・代理人手数料(国際予備審査請求+補正書+答弁書): 一般的に15~35万円程度(難易度などにより大きく異なる)
答弁書(及び補正)がISAの見解が変ったかどうかの確認:
国際予備審査機関(IPEA)が、答弁書と補正を検討した上で作成する国際予備審査報告(IPER)において確認できる。
各国の実体審査に対する国際予備審査報告の影響:
定かではない。特に米国や欧州などでは、他国の特許庁による国際予備審査の結果は余り重要視しない傾向がある。但し、英語でPCT出願し、EPOを国際調査機関(ISA)及び国際予備審査機関(IPEA)として選択した上で、欧州に移行した場合は、否定的な内容のIPERに対しては応答の義務がある。