欧州:単一効特許制度(Unitary Patent system)
欧州における「単一効特許」(Unitary Patent)の制度については、30年以上議論されておりましたが、紆余曲折を経て、2012年12月11日、ついに欧州連合(EU)は、「単一効特許」(Unitary Patent)、及び、それと不可分の関係にある「統一特許裁判所」(Unified Patent Court)に関する一括法案の採択を決定しました。こうして、統一特許裁判所協定(UPCA: Unified Patent Court Agreement)がもうじき発効する予定です。現行の欧州特許制度と同じく本「単一効特許」制度における欧州特許庁(EPO)の公式言語は英語、ドイツ語及びフランス語であるため、スペイン、ポーランド、クロアチアは自国の言語での申請が認められないことを理由に反対しており、そのため、当面は欧州連合(EU)加盟の27カ国中、スペイン、ポーランド、クロアチア、及びUPCA署名済みで未批准の国7か国(ギリシャ、ハンガリー、ルーマニア、キプロス、アイルランド、スロバキア、チェコ共和国)を除いた17カ国で発効することとなります(EU加盟27カ国中、24カ国*が本制度への参加に同意しています)。ドイツの批准から4か月目の第1日から発効することとなっています。国民投票で欧州連合(EU)からの離脱(いわゆる「ブレグジット」(Brexit))を選択したイギリスは本制度へ不参加となります。2022年10月現在、フランス、イタリア、オランダを含む16カ国(AT, BE, BG, DK, EE, FI, FR, IT, LT, LU, LV, MT, NL, PT, SI, SE)が批准済みですが、ドイツがまだ批准してないので、未発効となっています。現在、参加国は、2023年初頭の発効を目指して作業中です。
統一特許裁判所(Unified Patent Court)は、3箇所の中央部(パリには中央部の本部が、ミュンヘンには中央部の支部が設置され、3箇所目は未定)、複数の地方部(いずれの参加国も設置可能)及び複数の地域部(参加国2カ国以上で設置可能)からなる第一審裁判所(a decentralised Court of First Instance)、並びに控訴裁判所(a common Court of Appeal)(ルクセンブルクに設置される)から構成されます。救済及び仲裁センター(patent mediation and arbitration centre)がリスボンとリュブリャナに設けられます。判事研修センターがブダペストに設けられます。
現在の欧州特許条約(EPC)に基づく欧州出願においては、欧州特許庁(EPO)が出願審査を行い、EPOによる許可(特許査定)を得た後に、登録を希望するEPC加盟国への登録手続きを行うことにより、各国へ「枝分かれ」し、「特許の束」(bundle of national patents)として存在することとなります。
単一効特許制度発効後も、従来通り、審査は欧州特許庁が行いますが、特許許可後の手続きが統一化されます。統一化される手続きは、以下の通りです:
・ 各国への登録手続き: 現在は、登録を希望する国毎の手続きが必要で、請求項の翻訳文の提出が必要な国も有るが、この手続きを一本化する。欧州特許庁による許可の公告日から1ヶ月以内に単一効特許を選択することができる。
・ 翻訳文の提出: 7年から14年の移行期間中は、手続言語がフランス語かドイツ語の場合は、特許付与後に明細書全文の英語翻訳文を提出することが必要である。手続言語が英語の場合は、明細書全文の英語以外の欧州連合(EU)のいずれかの公用語への翻訳文を提出することが必要である。翻訳文に法的効力はない(“...shall have no legal effect and shall be for information purposes only”)。移行期間経過後はいずれの言語への翻訳文の提出も必要はない。(上記移行期間は正確度の高い機械翻訳システムの開発に必要な年数を考慮したものである。上記移行期間経過後は、全ての特許明細書が全てのEU公用語に機械翻訳される予定である。)
・ 維持年金の支払い: 現在は、各国で登録後は、国毎にまちまちの維持年金を支払う必要があるが、これを一本化する。具体的な金額は、ドイツ、フランス、イギリス及びオランダの維持年金の合計額相当である。
・ 係争の取扱い: 現在は、侵害訴訟や無効訴訟などは、各国の裁判所で取り扱われているが、これらは一括して欧州統一特許裁判所の管轄となる。ただし、特許権が一本化されることによる権利消滅のリスクがある。つまり、単一効特許は、統一特許裁判所に無効訴訟が提起され、無効であると判断された場合、参加国全てについて同時に無効となる。
なお、差し当って、既存の欧州特許や係属中の欧州特許出願には影響ありません。欧州単一効特許は国内特許及び従来の欧州特許と併存します。特許権者は欧州単一効特許、従来の欧州特許及び国内特許の様々な組み合わせを選択できます。しかし、参加26カ国における欧州単一効特許と従来の欧州特許の二重保護はありません。(ただし 、一部の国では欧州単一効特許と国内特許の二重保護が可能です。)
(統一特許裁判所と従来の欧州特許)
統一特許裁判所は、欧州単一効特許だけでなく、従来の欧州特許(既に取得された欧州特許を含みます)についても管轄権を有します。ただし、既に取得した従来の欧州特許(及び既存の欧州特許出願)については、特許権者の申請により、統一特許裁判所の管轄から除外(「オプトアウト」)し、各移行国が当該国において排他的に有する管轄権を維持することができます。
統一特許裁判所が従来の欧州特許についての管轄権を有する場合、侵害者が複数の国において侵害行為をしているときにはまとめて統一特許裁判所に提訴できるという利点はありますが、他方で、特許無効訴訟が統一特許裁判所に提起されて無効判決が出たときには、当該従来の欧州特許は協定を批准したすべての移行国において無効となる(「セントラルアタック」)というリスクがあります。このようなリスクを避けるためには、従来型欧州特許を統一特許裁判所の管轄から除外すること(「オプトアウト」)が必要です。
オプトアウト(専属管轄の適用除外)について:
従来の欧州特許の束は、統一特許裁判所(UPC)の管轄から適用除外(オプトアウト)が可能ですが、欧州単一効特許はオプトアウトできません。欧州単一効特許については、統一特許裁判所が最初から専属管轄権を有します。オプトアウトしない場合の従来の欧州特許の裁判管轄については、移行期間中は各国裁判所と統一特許裁判所(UPC)の共同管轄となり、移行期間経過後は統一特許裁判所(UPC)の専属管轄となります。オプトアウトの宣言は、統一特許裁判所の登記部(Registry)に提出します。
オプトアウトの宣言は取り下げることができます(オプトイン)が、その後再度のオプトアウトはできません。
オプトアウトするか否かに関わらず、従来の欧州特許が欧州単一効特許に変更されることはありません。
オプトアウトしない場合は、もしも第三者が特許無効をUPCに提訴して無効判決が出た場合、1つの判決により複数のUPCA批准国において特許無効になる(これを「セントラルアタック」と称します)というリスクがあります。
オプトアウトは、本制度が発効する前の3か月間(いわゆる「サンライズ」期間(sunrise period))、及び、本制度発効から7年~14年の期間(いわゆる「移行期間」(transitional period))満了の1ヶ月前までの期間に申請可能です(「移行期間」は基本的に7年ですが、状況により14年まで延長されるかも知れないという不確定な状態です)。
ただし、移行期間において、オプトアウトは、統一特許裁判所(UPC)で訴訟が提起されていない場合にのみ申請可能です。したがって、確実にオプトアウトできるのはサンライズ期間のみとなります。オプトインは、国内裁判所で訴訟が提起されていない場合にのみ申請可能です。
なお、2023年6月1日に本制度発効(移行期間の開始)の公算が高いようです。オプトアウトの庁費用(official fee)は無料であり、代理人に依頼する場合の代理人費用のみ必要です(代理人を使用せず権利者自身でもできます)。
(下記リストはご覧の時点で最新ではないかもしれません。最新情報はUPCの関連サイト(About the Unified Patent Court)をご覧ください。)
* 参加予定の24カ国(スペイン、ポーランド、クロアチアを除く欧州連合(EU)加盟国)は以下の通り:オーストリア、ベルギー、ブルガリア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、及びスウェーデン。
(EPC加盟国中、欧州連合(EU)加盟国ではないために不参加となる国は以下の11カ国:イギリス、アルバニア、マケドニア(旧ユーゴスラビア)、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、セルビア、スイス、及びトルコ。)
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