商標の先使用権について

【商標は、先使用権に頼らず、登録しておくのが賢明】

自己の業務について商標を用いている方には、なるべく早く商標登録出願をしてその商標を登録しておくことを、弊所は推奨しております。

この推奨に対して、
登録を受けなくても、他人の出願よりも前に自分が商標を使用していれば、先使用権により自分が商標を使用する権利を確保できることを理由として、商標登録は必ずしも重要ではない、
と考える方がいらっしゃるかもしれません。

確かに、日本商標法第32条(先使用権による商標の使用をする権利)には、他人の商標登録出願前から商標の使用をしていた者は、一定の要件の下で、先使用権を有することが規定されております。

しかし、先使用権に頼ることは、危険であり、費用の点でも好ましくありません。詳しくは、以下の通りです。

先使用権が認められるためには、先使用に係る商標が需要者の間に広く認識されていること(周知性)が必要です。訴訟となった場合、周知性は、先使用権を主張する側が立証しなければなりません。そのためには、裁判官を納得させるに足る十分な証拠を提示しなければなりません。そのような十分な証拠を収集することは、多くの場合、現実には容易ではありません。

さらに、十分な証拠を収集することが可能であるとしても、その収集のためには、多大の費用(ここでいう費用には、時間、労力等のすべてを含みます)がかかります。この費用は、普通に商標登録出願をして商標登録を受けるのに要する費用に比べると、著しく大きなものです。

過去の裁判において先使用権が認められた例として、東高判平成3年(ネ)第4601号(東京高裁平成5年7月22日判決;「ゼルダ」事件)、大地判平成19年(ワ)3083(大阪地裁平成21年3月26日判決;「ケンちゃん餃子」事件)などが挙げられます。しかしながら、これらの裁判における勝訴者の、当該商標が周知であることを裏付けるに足る多数の証拠を収集するための努力は、並大抵のものではなかったと推察します。

したがって、自己の商標は、先使用権に頼らず、登録しておくことが賢明です。


(2021-10-14)


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