各国における先行技術の定義と新規性喪失の例外(Part 2)
[II] 主要国(日本、米国、欧州、中国、韓国)における先行技術の定義と新規性喪失の例外規定適用条件の比較
(II-1)先行技術の定義: 国内公知 or 世界公知
国内における公知、公然の実施や文献の公開が先行技術となることを一般的に「国内公知」と称し、外国における公知、公然の実施や文献の公開も先行技術に含めることを一般的に「世界公知」と称します。
日本、欧州、中国、韓国:
出願の時を基準にした、世界公知の公知公用技術および世界公知の文献公知技術を採用する。[中国は、以前は、国内公知を採用していたが、2009年10月1日に施行された新中国専利法により、現在は、日本などと同様に世界公知を採用している(中国専利法第22条)。]
米国:
米国は、上記した通り、かつての先発明主義下では、国内公知の公知公用技術および世界公知の文献公知技術を採用していたが、米国新法 (America Invents Act) (AIA) 施行による先願主義移行(2013年3月16日)の後は、公知公用技術は世界公知に変更された。
また先行技術となる特許文献については、世界公知の文献公知技術であるが、AIAの施行による先願主義移行(2013年3月16日)の後は、後願排除効の有効出願日(先願としての効力を発揮する出願日)が変更された。即ち、上記した通り、米国外の出願に基づく優先権を主張した出願の場合の後願排除効の有効出願日は、かつての先発明主義下では米国における出願日であったが、先願主義移行後は最先の第一国出願日まで遡及する。
準公知(拡大先願):
日本、米国、欧州、中国及び韓国のいずれの国においても、準公知(出願時に未公開の先願)によっても新規性は否定される。
(詳細については、「出願時に公開されていなかった先願に対する新規性(拡大先願、準公知)と進歩性(非自明性)」
の項目をご覧下さい。)
(II-2)新規性喪失の例外規定:
2012年4月現在での各国における新規性喪失の例外規定の適用条件などを以下の表に示します。尚、米国は以前より、他国にも猶予期間(グレースピリオド)を米国と同様の1年にするよう要求しており、これに応じる形で変更する国が出てくる可能性があります。実際に、韓国において、米韓自由貿易協定(FTA)批准同意と同時に特許法が改正され、従来6ヶ月であった猶予期間が、2012年3月15日の米韓FTA発効と同時に、12ヶ月(1年)に変更されました。日本では平成30年の特許法改正によって発明の新規性喪失の例外期間が6か月から12ヶ月(1年)に延長されました(出願日が平成30年6月9日以降である特許出願が、平成30年改正後の特許法第30条の適用対象となります)(詳しくは日本特許庁の説明を参照)。猶予期間が12ヶ月である国としては、他に、台湾やインド、ブラジルがあります。
新規性喪失例外規定の有無 | 例外規定の対象となる公開手段(発明者自らの行為によるもの) | 猶予期間 (グレースピリオド) |
猶予期間内に行うべき出願 | 申請手続き | |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 有り1) | 制限なし(2012年4月1日施行新法により制限が事実上撤廃された2)) | 12ヶ月 (1年) |
日本出願又は日本を指定したPCT出願 | 出願時に申請書類、出願後30日以内に証拠書類 |
米国 | 有り1) | 制限なし | 12ヶ月 (1年) |
AIA施行前は、米国出願又は米国を指定したPCT出願のみだが、AIA施行後は、優先権出願でもよくなった5) | 不要 |
欧州 | 有り1) | 万博での展示など極めて限られた例に制限されている3) | 6ヶ月 | EP出願又はEPを指定したPCT出願 | 出願時に申請書類、出願後4ヶ月以内に証拠書類 |
中国 | 有り1) | 中国政府が主催する又は認める国際展示会における展示などに制限されている4) | 6ヶ月 | 中国出願、中国を指定したPCT出願又は優先権出願6) | 出願時に申請書類、出願後2ヶ月以内に証拠書類 |
韓国 | 有り1) | 制限なし | 12ヶ月 (1年) |
韓国出願又は韓国を指定したPCT出願 | 出願時に申請書類、出願後30日以内に証拠書類 |
注:1) いずれの国においても、本人の意に反して他人が発表した場合には、発表の手段によらず新規性喪失の例外規定の適用が可能です。
2) 旧日本特許法30条では、新規性喪失の例外規定が適用される公開手段は、①試験、②刊行物に発表、③電気通信回線を通じた発表、④長官指定の学術団体が開催する研究集会で文書をもって発表、⑤所定の博覧会への出品に制限されていた。平成23年6月8日に公布された改正特許法(平成24年4月1日施行)においては、「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して」発明が公知となったのであれば、特に公知にした手段は問われないこととなる。よって、現行法によれば、集会/セミナー等の、特許庁長官が指定ではない学会で公開された発明、テレビ/ラジオ等で公開された発明、販売によって公開された発明も、新規性喪失の例外規定の対象となる。(但し、日本や外国や国際機関の特許公報等(特許公報、実用新案登録公報、意匠登録公報、商標登録公報等)に掲載された発明は発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けることはできません。)
3) Article 55(1)(b) EPCによれば、新規性喪失の例外規定の適用を受けられる公開手段は、公のまたは公に認められた国際博覧会における出願人またはその法律上の前権利者によって発明が開示された場合。ここでの「公に認められた国際博覧会」とは、国際博覧会条約(BIE条約)に基づいて行われる博覧会、所謂「万博」であり、例えば、2010年は上海万博のみ。
4) 中国専利法第24条によれば、新規性喪失の例外規定の適用を受けられる公開手段は、①中国政府が主催、または承認した国際展示会での展示、②定められた学術会議あるいは技術会議での発表。
5) かつての先発明主義下では、公知なったのが米国での出願日前1年以内であることが要求されていたが、先願主義移行(2013年3月16日)後は最先の出願日(外国出願日でも良い)から遡って1年以内ということに変更された。
6) 専利審査指南、第一部分、第一章、6.3項に、公知になったのが中国での出願日のみならず優先日から遡って6ヶ月以内であれば新規性喪失の例外規定の適用を受けることが可能であることが規定されている。
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